鳥取県東部医師会 在宅医療介護連携推進室

第22回 東部在宅医療・介護連携研究会(多職種事例検討会)を開催しました

研究会の場を通した医療・介護にまたがる様々な情報の共有、相互の連携を深めることを目的に、多職種事例検討会を開催しています。

■ 「事例を通した医療・介護連携の情報共有・知識向上」

■ 「研究会参加による、医療・介護関係者の顔の見える関係づくり」

 

◆ 第22回(令和3年2月24日)19時~20時30分

 

◎ 松浦会長挨拶

みなさんこんばんは。お忙しいところご参加いただきありがとうございます。この検討会も22回目を迎え、前回に続いてのWEB講演会となります。本日はわたくしと伊奈垣先生が当番世話人、鳥取市立病院地域医療総合支援センター歯科の目黒先生にご講演いただきます。

目黒先生には、昨年10月30日に開催された「日常診療における糖尿病臨床講座」において、糖尿病の合併症である歯周病の病態について分かりやすくご講演いただきました。その際、訪問歯科診療でもご活躍とお聞きし、ぜひこの事例検討会でもご講演いただきたいとお願いしましたところ、快くお引き受けいただいた次第です。在宅で療養される方々にとって歯の健康がいかに大切かを認識する良い機会だと思いますので、どうぞご清聴ください。

 

◆ 演題: 高齢者における歯周病などの口腔の問題 ~医科歯科連携と医療介護連携に向けて~

◆ 講師: 鳥取市立病院 診療部部長 目黒 道生 先生(歯科医師)

◆ 座長: いながき歯科医院 院長 伊奈垣 学 先生

◆ 世話人: 栄町クリニック 院長 松浦 喜房 先生

私も歯科往診しますが、皆さんご存じのとおり、目黒先生は市立病院で病棟の有病高齢者を中心に治療を行っておられ、積極的に外にも出てリハビリもされ大変ありがたく思っています。いろいろなところで他職種との連携が必要だと日頃から言われておりますが、本日はそういったこともお話いただけると思います。それでは目黒先生よろしくお願いいたします。(座長 伊奈垣先生)

本日はこのような機会をいただき、松浦先生、伊奈垣先生ありがとうございます。講演依頼は、摂食嚥下や介護の方との関わりなどが多く、今回は歯周病ということで、久々に歯のことについて皆様に講演させていただきます。(目黒先生)

【 講演概要 】

オーラルフレイル、歯周病、咀嚼、歯周病と全身疾患、糖尿病や薬の副作用・合併症による顎骨壊死の予防について。通院困難や食事の様子をキーワードとした連携について。大事な事として、義歯を作っておくこと、かかりつけ歯科をもっておくこと、かかりつけ歯科への定期的な通院、噛める義歯になるよう修正してもらうこと、歯周病が悪いときは早めに抜歯をする、そして一番大事なことは、歩けなくなったら訪問歯科診療を依頼すること。

【 事例について 】

85歳女性。自宅で息子と二人暮し。自宅の自室ベッド付近で転倒し、疼痛にて歩行困難となり病院を受診。大腿骨頸部骨折の診断で入院し、骨頭置換術とリハビリの予定となった。また、骨粗鬆症に対する治療薬を投与予定。進行した虫歯が4本あり噛むことができない。入れ歯はあるがうまく使えていない。食事形態は普通食を摂取。日常的にムセがあり痰も毎日ある。自己排痰は可能。

講演の様子 講演の様子

■ 以下の内容(意見交換)は、PDFでもご覧いただけます (209kb) ←クリックしてください

• 参加されている方の中には個人宅を訪問される方がいらっしゃると思います。今日のお話を聞いて、こんなとき歯科医に往診依頼して良いのか、こういう時はどうすれば良いか、歯科?内科?リハビリ?といった疑問が出ると思いますが、こういった場面に出くわしたことはありますか。(伊奈垣先生)

・誰に相談するかとなったら、とりあえずの人に相談し解決している。ただ、訪問栄養士を知らないので、在宅訪問できる栄養士に、治療中や食べる事ができないときの回復時の助言がほしい。病院から退院であれば、病院栄養士に相談できるが、在宅だと栄養士さんがその方について知る方法がなく、そのあたりが困る。(訪問看護師)

・栄養士会、サンビル、徳吉薬局で栄養ケアステーションを立ち上げた。診療所から在宅栄養指導や外来栄養指導の依頼を受けると、そこから栄養士を派遣し、栄養指導が受けられるというシステム。委託契約が必要。この事例で病院栄養士の立場で言うと、普通食は形体が合っていない。食べやすい大きさ、ムセがあるのでとろみ剤を使い食材をまとめるなど、誰かがアドバイスできれば。そこの評価をする訪問PTや訪問STがあると良いのではと思いました。(管理栄養士)

• 私が訪問する時は、入れ歯の調整前と調整後に固形物を食べていただき、噛み方や口の中での砕け具合、飲むタイミングを評価し、それが難しければおやつで訓練する。施設職員さんには、大きさや食べ方、痰の評価など細かく見ていただきながら大丈夫そうであれば食事へ移す。食事の食べ方の評価は必ず行っています。(目黒先生)

• 私は個人宅や施設に行く時、なぜ呼んだのか?と思う事はないが、なぜ早く呼ばなかったのかと思う事は多々あります。ほとんどの高齢者が、なぜ歯科にかからなかったのかという状況にあるのではないか。少しでも不調があれば歯科を呼んでほしい。もしかすると問題は歯科側にある?呼びづらいとか、呼んでも来るのが遅いとか。どうでしょうか?(伊奈垣先生)

・医科の立場から思うことは、先生方が頑張っておられる話の内容自体が不十分で、もっと医歯科が勉強し、お声かけをしていくことが大事だと感じた。また、お金のことも絡むと思う。介護保険で訪問サービスを利用する方は複数のサービスを利用されていると思う。ケアマネさんにもよるが、失礼ながら歯科は後回しになっているのではないか。でも先ほどからのお話を伺っていると、歯科は大事なことで、そのことについて私共は十分認識していないのではないかと感じた。(病院医師)

・歯科からのアピールは大変重要だと思う。いろいろな職種の方や家族の方に分かっていただけるように、また、歯科から他科へ聞いた時、入れ歯は使えています、となることもあり、自分たちが行っていることを理解いただけるようにしたい。金銭面について、高齢者は1割ですが、私が行っている月1の診察では千円~2千円となり、その負担をご理解いただけるようしっかりと説明していきたい。(目黒先生)

• 我々のせいではないと思うが、きっと昔の歯医者さんが高かったのだと思います。歯医者さん高いんでしょってよく言われるんです。でも往診の保険点数をみると、明らかに医科のほうが高い。もう少し気軽に呼んでいただきたい。ただ、千円でも考えてしまう方はたくさんいらっしゃる。歯科往診で入れ歯調整するといくらかかる?といった相談もある。目黒先生が言われたように保険の負担割合もありますが、最低千円はかかるので…、保険制度で居宅1人だと高かったり、施設で2人以上見ると少し点数が下がったり。具体的にいくらとは言えず、そのあたりは問題かなと。(伊奈垣先生)

・10年ほど前は病院でも、訪問で歯科ですと言うと、来ないで、顔を見たくないと言われることが1~2割あった。今は、地域の方々が口腔ケアの大切さについて理解されているし、保険診療だけということ、100万円もしませんよ、保険で片側2千円程度ですとお伝えすると、じゃあしてくださいとなる。昔と違い保険で賄える。歯科が高いというイメージも地域の方と我々とでは異なるということはよく経験している。(目黒先生)

• 在宅高齢者の歯の問題を歯科医師へどう伝えるかが入口。介護側でキーになるのはケアマネ。患者も同居家族も高齢者という世帯は多いと思うので、教えてと言っても難しいのではないか。関わっているケアマネ、訪看、ヘルパーが気付いて、介護保険ではお金のこともあるため医療保険の訪問で基礎チェックできればと思ったりする。介護認定のある患者が入院したときに病院へ提出する入院時情報提供書という様式に口腔の項目があるが、義歯があるかないか、あっても部分か総かだけ。他は、嚥下機能がむせるかむせないか、口腔清潔が良いか悪いか、口臭があるかないか、それだけ。ネット上にあるケアマネのアセスメントシートも、口腔チェックは似たような中身しかない。この内容で歯科側には伝わらないと思った。

古い話だが10年くらい前、市役所で保健医療福祉の連携で議論したとき、ケアマネに使ってほしいと思い当時の歯科医師会の先生と一緒に「高齢者の口腔ケアチェックシート」を作った。だが、なかなか広がらず、それを知っている先生やケアマネもほとんどいないのではないかと思う。こういった様式はネットでも出てくるし、住民さんや介護側に意識を持ってもらうことも必要なのではないか。今更ながらその様式を出してみましたが、どうでしょう?(事務局)

・今見て思い出しました。以前から、歯科に紹介しづらいのは口の中を見られるのが恥ずかしく、他職種が対象者の口の中の状況を把握しづらいという意見があり、実際に見なくてもいいから、聞き取りだけでもということでこのチェックシートを作った。質問は12項目で、①口に痛み腫れ出血あり②歯のないところがありそのまま③入れ歯が合っていない④口の中が汚れている⑤舌苔がある⑥入れ歯が汚れている⑦口臭がある⑧口の渇きが気になる⑨食事中むせることがある⑩痰の絡みがある⑪硬いものが食べにくくなった⑫食べこぼしが多くなった。

以前、智頭町の地域ケア会議に参加したとき、口の情報が入ってこないから口の中を確認してとケアマネにお願いした。こういったチェック項目の他に、口の中の絵、こんなかたちの入れ歯があったとか描いてとお話した。そういうものがあるとすごくありがたい。口を開けてもらったときに入れ歯が落ちたらそれはダメということだし、舌を出してもらえば状態も分かったり、よく見なくても分かることもある。そういった情報があるとありがたい。そこから歯科に繋がれば、提案できること、治療やリハビリについてもお伝えできる。良い提案をいただきありがとうございました。(伊奈垣先生)

• 介護保険の評価の時、嚥下はむせていても自力で摂取でき、むせの頻度としては多くないため問題なしとなる。介護保険認定の評価方法と、医療的な細かな誤嚥が起こるという初期の誤嚥の評価でずれがあり、形態がうまく合わないかなと思うこともある。そこをどう認識しピックアップしていくか。ケアマネさんがいらっしゃったらご意見いただきたい。(目黒先生)

・認知症が重度で拒否があり、訪問診療では口も開けられず、歯茎で食べているけど仕方ない。で終わっている方がいらっしゃる。診察に繋げられない方はどうすれよいでしょう。(介護支援専門員)

・歯科でアプローチするとしたら、家族やヘルパーなど口を触られることに本人が慣れていない場合は、歯科衛生士などが本人に慣れてもらう方法をケアマネを通じてお伝えし、口に触られることに対する恐怖感や行動で嫌がっていることが少し和らぐケアの仕方もある。短期で歯科衛生士に入ってもらい、家族やヘルパーに口のお手入れをしてもらううちに歯の手入れが可能になる事もある。そういった連携ができると、担当者会議でプランもでき、プランの見直しもできる。(目黒先生)

・認知症の方の中には、普段介護されている方はダメだけど、歯医者なら口を開ける方もいらっしゃる。白衣に弱いのかもしれませんし、反対に歯医者だとダメな方もいらっしゃいますが。行ってみないと分からないし、一度では分からないこともある。施設では他の方の治療で顔を合わすこともあるため、そのときにニコっと笑っておけば今度は口を開けてくれるかなと期待してみたり。中には諦めて義歯を使わない方もいらっしゃるが、重度の認知症の方でも呼んでいただいて構わないと思います。(伊奈垣先生)

・退院前カンファレンスに出たときに思うことは、医療的サービスやリハビリ、診察の話は出るが、歯に関することは話題にでない。痛みがあるなど本人が強く訴えているときは話に出るかもしれないが…。入れ歯が摩耗して溝がなくなっても、家族は「あるじゃない」と思われるので、サービスを計画するときに歯のこと、定期的な歯科診療の必要性などを家族に理解いただくことも大事だと思いました。(管理栄養士)

• 目黒先生は他の職種の方から写真をメールで送られてきたことってありますか?あれば便利だと思いませんか?(伊奈垣先生)

・個人的にはあるが、システム的にはないです。食事中の姿勢、入れ歯、食べ方を見れば歯科でもできることがありますよ、とか、そこは大丈夫ですといった事はお伝えできると思います。(目黒先生)

・食事中の動画を見てそれに対して指導し、どうやって保険請求するのかという問題はありますが…、オンライン診療でできないでしょうかね、経験がないのでわかりませんが。でも実際にそういった動画を見て分かることもありますし、入れ歯の写真や、口をいーっとしている写真だけでも分かることがあるので、そういうのがあると嬉しいです。(伊奈垣先生)

【 事例について目黒先生より 】

こういった方に必要なこととして、介護申請、訪問歯科、そして食事や水分での誤嚥は姿勢でなってしまうこともあるので、限られた状況の中でどのように姿勢を治すかが大事かなと考えます。 キーは相談員、保健師、ケアマネ。病院や地域をつなげていく大切な役割です。

私が作成した「摂食支援」に必要な知識と誤嚥性肺炎患者の家族への指導を紹介します。それぞれ10項目ずつあります。

講演の様子

• ありがとうございます。入れ歯の調整を少ししただけで飲み込みが良くなることもあるので、気軽に歯科へ繋げていただければと思います。繋げてばかり言っていますが、皆さんが口の中に少しでも興味をもっていただける機会になったのであれば、とてもうれしく思います。(伊奈垣先生)

• 今日はお疲れさまでした。しっかりした歯でないと嚥下も咀嚼もできないです。ムセや咳込みだけならまだしも、肺炎や栄養が摂れないと命にかかわります。 療養者がちゃんと生きていけるかは歯科医に係っているといっても過言ではないと思います。 中には波があって、入れ歯が合っていないとか、あっても噛めないとか、何を勘違いされたのか入れ歯じゃ噛めないとか誤解もあったりして。でもその悩みをなかなか表に出せなかったりする方も多いようです。歯医者さんに来てもらえることを知らない方もいらっしゃる。歯科の先生にお願いすると大抵快く受けてくださっていますが、私も内心、マンパワー大丈夫かなとか衛生士さんも時々は来てくださるのかなとか心配もしながら紹介しています。大丈夫ですよね?伊奈垣先生?(松浦会長)

• 松浦先生の患者さんを紹介いただき診たこともあります。往診先で目黒先生とかち合った時もあります。難しくなれば歯科医師会に訴えますので、何とかなると思います。よろしくお願いします。本日は皆さんありがとうございました。(伊奈垣先生)

 

◇ 参加者:34名 ( 医師 5名、歯科医師 3名、薬剤師 2名、看護師 5名、保健師 4名、栄養士 2名、歯科衛生士 5名、

介護支援専門員 3名、事務職 5名 )

戻る

▲トップへ